青空文庫

「朴の咲く頃」の感想

朴の咲く頃

ほおのさくころ

初出:「文藝春秋」1941(昭和16)年1月号

辰雄39
回顧的自然と人間の冥通静謐内省的懐古

書き出し

一あたりはしいんとしていて、ときおり谷のもっと奥から山椒喰のかすかな啼き声が絶え絶えに聞えて来るばかりだった。そんな谷あいの山かげに、他の雑木に雑って、何んの木だか、目立って大きな葉を簇がらせた一本の丈高い木が、その枝ごとに、白く赫かしい花を一輪々々ぽっかりと咲かせていた。……それは今年の夏になろうとする頃で、私と妻は、この村にはじめて来た画家の深沢さんを案内しながら、近所の林のなかを歩き廻った挙

2025/07/22

ふねりさんの感想

掴みどころの無い回想が多かったが、植物と共に生活する豊かさと経済的困窮の対比が美しい作品だった。老人の儚い老後や、かつてそこにあったはずの人・植物・建物を懐古する主人公の心のやり場のなさが、変化する時代のあはれを局所的かつ繊細に表していた。しかし題にあるように、かつては咲いていなかった朴の花もまた美しいものである。爺が亡くなり豆の花は消え、しかし朴が咲くようになった山は、避けられない時代の変化に美しさを見出そうとする主人公の前向きな諦念そのものである。

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