青空文庫

「北信早春譜」の感想

北信早春譜

ほくしんそうしゅんふ

初出:「草衣集」相模書房、1938(昭和13)年6月

作家の日常季節の移ろい旅の情景叙情的静謐

書き出し

碓氷を越すと一面の雪で、急に冬へ逆戻りしたやうな感じであつた。さつきまでぽかぽかと早春の陽光を浴びながら上州平野を通つてゐた時とは、まるでちがつた心がまへにならないではゐられなかつた。輕井澤のプラットフォームに飛び下りて、蕎麥のどんぶりを抱へて湯氣を吹き吹き食つてゐる人たちは、皆外套の襟を立てて首をすくめてゐる。毎夏顏なじみの赤帽の爺は、無精鬚を伸ばして、われわれの車の前にぽつねんと立つてゐるけれ

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