青空文庫

「白藤」の感想

白藤

しらふじ

初出:「孝子の俤」1944(昭和19)年12月発行

下町風土作家の日常回顧的家族不和叙情的懐古静謐

書き出し

夢で見たような一つの思い出がある。小さい自分が、ピアノの前で腰かけにかけている。脚をぶらぶらさせて、そして、指でポツン、ポツンと音を出している。はにかんで、ほんとうに弾けるようには指を動かさないで、音だけ出しているのであった。わきに、一人の若い女のひとが立っていた。ふっくりした二枚重ねの襟もとのところが美しい感じで印象されているが、顔だちや声やは思い出せない。何を話したのだろう、それも忘れてしまっ

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