鹿踊りのはじまり
ししおどりのはじまり
初出:「イーハトヴ童話 注文の多い料理店」盛岡市杜陵出版部・東京光原社、1924(大正13)年12月1日
宮沢賢治約23分
古典の翻案童話的ファンタジー自然と人間の冥通叙情的幽玄静謐
書き出し
そのとき西のぎらぎらのちぢれた雲のあひだから、夕陽は赤くなゝめに苔の野原に注ぎ、すすきはみんな白い火のやうにゆれて光りました。わたくしが疲れてそこに睡りますと、ざあざあ吹いてゐた風が、だんだん人のことばにきこえ、やがてそれは、いま北上の山の方や、野原に行はれてゐた鹿踊りの、ほんたうの精神を語りました。そこらがまだまるつきり、丈高い草や黒い林のままだつたとき、嘉十はおぢいさんたちと北上川の東から移つ…
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