青空文庫

「十三夜」の感想

十三夜

じゅうさんや

――マニラ籠城日記

――マニラろうじょうにっき

初出:「中央公論」中央公論社、1944(昭和19)年4月

尾崎士郎35

書き出し

十二月七日。椰子の葉が風にゆれている。ブルー・バードの河岸はいつも見る同じ風景ではあったが、鳴りをしずめた自然の中にさえ無気味な影がちらついている。ブルー・バードの並木道へ出るとさすがに冬の気配が心にせまるようであった。空は青く雲のかげも見えないほど澄みきっているし、防波堤の上には散歩服を着たスペインの女が何時ものように、ゆったりとした足どりであるいている。それさえも、現在の自分とはもう縁もゆかり

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