ジ アフェア オブ トゥー ウォッチイズ
初出:「新思潮」1910(明治43)年10月号
書き出し
何でも十二月の末の、とある夕暮の事だった。晴れるとも曇るとも思案の付かない空が下界を蔽い、本郷一帯の高台を吹き廻る風はヒューヒュー鳴って、大学前の大通りを通る程の物が、カサカサと乾涸らびた微かな音を立てゝ居た。此の辺の道路は雨が降ると溝泥になる癖に、此の日は堅い冷めたい鉄板の如き地肌を寒風に曝して、其の上へ叩き付けられる砂塵が、鼠花火のように二三町渦を巻いて走った。往来の人は口を噤んで自分自分の足…