青空文庫

「散柳窓夕栄」の感想

散柳窓夕栄

ちるやなぎまどのゆうばえ

初出:「三田文学」1913(大正2)年1月、3月、4月

永井荷風109

書き出し

一天保十三壬寅の年の六月も半を過ぎた。いつもならば江戸御府内を湧立ち返らせる山王大権現の御祭礼さえ今年は諸事御倹約の御触によってまるで火の消えたように淋しく済んでしまうと、それなり世間は一入ひっそり盛夏の炎暑に静まり返った或日の暮近くである。『偐紫田舎源氏』の版元通油町の地本問屋鶴屋の主人喜右衛門は先ほどから汐留の河岸通に行燈を掛ならべた唯ある船宿の二階に柳下亭種員と名乗った種彦門下の若い戯作者と

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