びんごより
初出:「アララギ」1915(大正4)年11月
書き出し
この峡に帰ると急に強く秋らしい日光の光線が感じられて、最初は稍物寂しく思つたが今は慣れるに従つて却つて真実に心が落著いて来た様である。山峡の秋はこれから愈々深んで行く計りだ。早稲ももうぼつぼつと刈り始められて居る。この刈跡が漸次峡底に増加えて行くといやはてには人目も草も枯れはてる寂しい冬が来るのである。それにしても自然の推移の早いに驚かざるを得ない。帰省した頃は僕の裏田にまだ稲穂が色薄くその重い姿…