ほのおのなかにうたう
初出:「文芸倶楽部」1928(昭和3)年10月
書き出し
一温かい、香ばしい芙蓉の花弁が、そっと頬に触れた——。そう感じて深井少年は眼を開きました。多分今まで気を喪なって居たのでしょう、四方を見ると、全く見も知らぬ華麗な室の、南寄の窓の下に据えた、素晴らしい長椅子の上にそっと、寝かされて居るのでした。「気がおつきになって?まあよかった」紅芙蓉の花弁と思ったのは、額口へ近々と寄った、この女の唇だったかも知れません。しかも、その美しい唇から、ビロードのような…