しんこんりょこう
初出:「中央公論 第四十一年第一号」中央公論新社、1926(大正15)年1月1日
書き出し
新婚旅行例年の如く、晩秋のこの頃は、黄ろい葉や紅い葉で色取られて、箱根の山は美しい。この山に限らない、何處の山でも何處の田舍でも、秋は美しいに違ひない。晴れ切つた、風のない空に、烏が幾羽も浮んでゐる。山中でも温かい日盛りの午後の二時頃。一人の男と一人の女とが、宮ノ下の電車の停留所へ、足早に坂を登つて來た。彼等の乘つた二等室には、他には乘客がなくつて借し切り見たいであつた。この二人はさう美しい人間で…