青空文庫

「騎士と姫」の感想

騎士と姫

きしとひめ

書き出し

春の弥生の夜は仄に天地ひくゝ垂れあひて、情のにほひいちめんにおぼろおぼろの花ぐもり、精舎の壁の地獄絵も温き霞を纏ふらむ。森の木立の月かげを避けて、まぶかき黒鉄の甲に、なほも色白の面凛々しく、瑠璃青の瞳きよげに、花ぐさをわけつゝしのぶ騎士ひとり。『たそがれがたの戦闘に十騎の敵を殺したれ、胸にさしたる紅薔薇二輪色濃くちりもせず、西の丘なる陣指すと、悠に見かへる敵の城。時しもあれや、矢は一つ、空鳴りしつ

1 / 0