青空文庫

「情鬼」の感想

情鬼

じょうき

初出:「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月

大倉燁子45

書き出し

1「小田切大使が自殺しましたよ」夕刊をひろげると殆ど同時にS夫人が云った。その瞬間、私の頭の中をすうッと掠めたある影——、それは宮本夫人の妖艶な姿であった。小田切大使の自殺に宮本夫人を引張り出すのはちょっと可笑しいが、私の頭の隅に、二十年前の記憶が今なお残っていたからであろう。その当時は小田切大使も宮本夫人もまだ若かった。少壮外交官の彼と彼女とは到る処で話題の種をまきちらしていた。そして二人の関係

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