ゆうのふ
初出:「文芸界 第二巻第二号」1903(明治36)年8月
書き出し
仰げばみ空青く澄み、金星遙に霑ひて、神秘の御幕長く垂れ、闇の香襲々屋根に戸に、夕となりぬ月出ぬ。夕となりぬ月出ぬ、雲のみ無心に靉靆て、烏は北枝の巣に帰り、狐は隣の穴を訪ひ、螢は燃えて河堤。我もまた有情の男、若かうて夕に得堪へめや、詩ぐるほしき戸を避けて、倚るは誰が十九のやわ肌、力ゆらぎてあな強や。夕となりぬ月出でぬ、ふりさけ見ればみ空には、自然の扉開かれて、愛と自由の彩眩ゆく、懸想希望を富ましむる…