青空文庫

「香爐を盗む」の感想

香爐を盗む

こうろをぬすむ

初出:「中央公論」1920(大正9)年9月号

室生犀星53

書き出し

男が出かけようとすると、何時の間にか女が音もなく玄関に立っていて、茶色の帽子をさし出した。男はそれを手にとると格子をあけて出て行った。女はしばらくぼんやり立っていたが、間もなく長火鉢のところにぐったりと坐って、いつまでも動かないでいた。それは女のくせで、いつも男が出て行ったあとは考え込んで、すっかり陰気になって、なにも手のつかない一二時間をぼんやりして送るのが常である。そして考えつかれるとやっと縫

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