青空文庫

「爪」の感想

つめ

初出:「十三人 第一巻第二号(十二月号)」十三人社、1919(大正8)年12月1日

牧野信一14

書き出し

寒い晩だつた。密閉した室で、赫々と火を起した火鉢に凭つて、彼は坐つて居た。未だ宵のうちなのに周囲には、寂として声がなかつた。彼は二三日前から病気と称して引籠つて居た。別に、どこがどう、といふのではなかつたが、それからそれへ眠り続けた勢か、頭は恰でボール箱の如くに空漠として、その上重苦しい酒の酔が錆び付いてるやうで、起きる決心が付かなかつたのである。焦れぬいてゐるのだつたが、頭は容易に自分のものに返

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