青空文庫

「八寒道中」の感想

八寒道中

はっかんどうちゅう

初出:「講談倶楽部」1929(昭和4)年1月号

吉川英治42

書き出し

一笛は孤独でたのしめる。——いつか旅で笛を吹く心境のふしぎな陶酔の味を知って、今では、安成三五兵衛の腰には、大小と印籠のほかに、袋にはいった一笛がたばさまれて、かれの旅に離れぬものとなっていた。それは、桑名の城下で、すすけた古物屋の店ざらしの中から見つけ出した笛だった。値はお話にならないくらい安かったが、手がけてみると逸品で、誰か、名人の手になった作にちがいない。彼は、もうその笛を、三、四年も持ち

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