はっかんどうちゅう
初出:「講談倶楽部」1929(昭和4)年1月号
書き出し
一笛は孤独でたのしめる。——いつか旅で笛を吹く心境のふしぎな陶酔の味を知って、今では、安成三五兵衛の腰には、大小と印籠のほかに、袋にはいった一笛がたばさまれて、かれの旅に離れぬものとなっていた。それは、桑名の城下で、すすけた古物屋の店ざらしの中から見つけ出した笛だった。値はお話にならないくらい安かったが、手がけてみると逸品で、誰か、名人の手になった作にちがいない。彼は、もうその笛を、三、四年も持ち…