いしかわごえもんのおいたち
書き出し
一文吾(五右衞門の幼名)は、唯一人畦の小徑を急いでゐた。山國の秋の風は、冬のやうに冷たくて、崖の下の水車に通ふ筧には、槍の身のやうな氷柱が出來さうであつた。布子一枚で其の冷たい風に慄へもしない文吾は、實つた稻がお辭儀してゐる田圃の間を、白い煙の立ち騰る隣り村へと行くのである。隣り村には、光明寺といふのがあつて、其處の老僧が近村の子供たちに手習ひをさして實語教なんぞを讀むことを教へてゐる。文吾も今年…