ぼくようしん
初出:「牧羊神」金尾文淵堂、1920(大正9)年10月5日
書き出し
牧羊神阜の上の森陰に直立ちて牧羊の神パアン笙を吹く。晝さがりの日暖かに、風も吹きやみぬ。天青し、雲白し、野山影短き音無の世に、たゞ笙の聲、ちよう、りよう、ふりよう、ひうやりやに、ひやるろ、あら、よい、ふりよう、るり、ひよう、ふりよう、蘆笛の管の簧、震ひ響きていづる音に、神も昔をおもふらむ。髯そゝげたる相好は、翁さびたる咲まひがほ、角さへみゆる額髮、髮はらゝぎて、さばらかに、風雅の心浮べたる——耳も…