いいざかゆき
初出:「東京日日新聞 第一六〇九二号~一六〇九八号」東京日日新聞社、1921(大正10)年7月21日~27日
書き出し
一旅は此だから可い——陽氣も好と、私は熟として立つて視て居た。五月十三日の午後である。志した飯坂の温泉へ行くのに、汽車で伊達驛で下りて、すぐに俥をたよると、三臺、四臺、さあ五臺まではなかつたかも知れない。例の梶棒を横に見せて並んだ中から、毛むくじやらの親仁が、しよたれた半纏に似ないで、威勢よくひよいと出て、手繰るやうにバスケツトを引取つてくれたは可いが、續いて乘掛けると、何處から繰出したか——まさ…