はりのきのいけにえ
書き出し
松本から信濃鉄道に乗って北へ向かうこと一時間六分、西に鹿島槍の連峰、東には東山の山々を持つ大町は安曇高原の中心として昔から静かに、ちんまりと栄えて来た町である。もちろん信州でも北方に位するので、雪は落葉松の葉がまだ黄金色に燃えているころからチラチラと降り始めるが、昨年(昭和二年)は概していうと雪の来ることがおそかった。が、来るべきものは来ずにはおかぬ。十二月二十三日の晩から本式に降り出して翌日も終…