青空文庫

「享楽人」の感想

享楽人

きょうらくじん

初出:「人間」1921(大正10)年5月号

和辻哲郎12

書き出し

五、六年前のことと記憶する。ある夜自分は木下杢太郎と、東京停車場のそのころ開かれてまだ間のない待合室で、深い腰掛けに身を埋めて永い間論じ合った。何を論じたかは忘れたが、熱心に論じ合った。二人の意見がなかなか近寄って来なかった。そこを出て大手町から小川町の方へ歩いて行く間も、なお論じ続けた。日ごろになく木下が興奮しているように思えた。小川町の交叉点で——たしかそこで別れたように思うが——木下は腹立た

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