青空文庫

「垂水」の感想

垂水

たるみ

初出:「セルパン」1933(昭和8)年3月号

神西23

書き出し

二十年ほども昔のこと、垂水の山寄りの、一めんの松林に蔽はれた谷あひを占める五泉家の別荘が、幾年このかた絶えて見せなかつた静かなさざめきを立ててゐた。その夏浅いころ、別荘の古びた冠木門を、定紋つきの自動車に運ばれて来た二人の人物が、くぐつて姿を消したのである。その日ののち、通りかかる里の人々の目は、崩れかけた築地のひまから、松林の奥に久方ぶりの燭火の幽かにまたたくのを見た。丁度その年の秋の末に、五泉

1 / 0