しゅんでい
『白鳳』第一部
初出:「新文學」1948(昭和23)年1月号
書き出し
大海人は今日も朝から猟だつた。午ちかく、どこではぐれたのか伴の者もつれず、一人でふらりと帰つてくると、宮前の橿の木のしたで赤駒の歩みをとめた。舎人の小黒が、あわてて駈けだしてきて、手綱をおさへる。そして何か言つた。「ほう、嶋が?多治比ノ嶋が来てゐるのか?」大海人は、よくかげ口をきかれる例の神鳴り声を、小黒の禿げ頭のてつぺんへ浴びせかけると、ゆらりと地上へおり立つた。おそるおそる、といふよりは反射的…