なつのまち
書き出し
一枇杷の実は熟して百合の花は既に散り、昼も蚊の鳴く植込の蔭には、七度も色を変えるという盛りの長い紫陽花の花さえ早や萎れてしまった。梅雨が過ぎて盆芝居の興行も千秋楽に近づくと誰も彼も避暑に行く。郷里へ帰る。そして炎暑の明い寂寞が都会を占領する。しかし自分は子供の時から、毎年の七、八月をば大概何処へも旅行せずに東京で費してしまうのが例であった。第一の理由は東京に生れた自分の身には何処へも行くべき郷里が…
19双之川喜41さんの感想
荷風は 欧州まで出かけたことがあるにしては 旅行▫旅館を好いていないらしい。 日常的な佇まいのうちに 非日常的な詩味を 掘り出す。 旅券いらずと言うか 切符いらずと言うか お徳用な嗜好ではあると感じた。