ふゆがれ
初出:「中央公論」1934(昭和9)年12月
書き出し
一この南九州の熊本市まで、東京から慌ただしく帰省してきた左翼作家鷲尾和吉は、三日も経つともうスッカリ苛々していた——。朝のうちは、女房が洗濯を終るまで子守しなければならぬので、駄菓子店である生家の軒先の床机を出して、懐中の三番めの女の児をヨイヨイたたきながら、弱い冬の陽だまりでじッとしている習慣だった。この辺は熊本市も一等端っこの町はずれで、肥汲み馬車と、在から出てくる百姓相手の飲食店、蹄鉄屋、自…