たんていしょうせつだんのしょけいこう
初出:「新青年 第七巻第三号新春増刊号・探偵小説傑作集」1926(大正15)年2月号
書き出し
一『カラマーゾフ兄弟』のような小説を読むと、誰でも少なくも二日や三日は、作品の世界からぬけきれないで、平凡極まる自分の生活がいやになるに相違ない。ロシアの近代思想を縦横に解剖してゆく検事の論告に読みふけっている最中に、「どうだい近頃は」というような、この上ないコンベンショナル〔型にはまった〕な話しかたをしかけるものがあったら、その瞬間には、相手の男がどんなに大学者であっても、まるで煉瓦のように無知…