スペインのこい
初出:「新趣味」1923(大正12)年1月
書き出し
一熱病やみか狂人か私の負傷は癒えなかったけれど、故郷を出てから六月目に、それでもマドリッドへ帰って来た。私は誰にも逢わなかった。又逢いたいとも思わなかった。しかし、親友のドン・ムリオだけには逢って見たいような気持がした。「カスピナに逢うのも悪くはない。私は誰でも構わない。慰めてくれる人が欲しいのだ」ドン・ムリオの一人の妹、十九のカスピナが久しい前から、私を愛してくれていた。私はそれを知っていた。そ…