青空文庫

「白痴の母」の感想

白痴の母

はくちのはは

初出:「民衆の芸術 第一巻第四号」1918(大正7)年10月1日

伊藤野枝22

書き出し

一裏の松原でサラツサラツと砂の上の落松葉を掻きよせる音が高く晴れ渡つた大空に、如何にも気持のよいリズムをもつて響き渡つてゐます。私は久しぶりで騒々しい都会の轢音から逃れて神経にふれるやうな何の物音もない穏やかな田舎の静寂を歓びながら長々と椽側近くに体をのばして、甘つたるい洋紙の匂や、粗いその手ざはりさへ久しぶりな染々した心持で新刊書によみ耽つてゐました。ふと頁を切るひまの僅かな心のすきに、如何にも

2015/04/15

あきふゆさんの感想

明治のフェミニスト、アナーキストである伊藤野枝女史の作品。彼女の描く社会の底辺には全く救いがなく絶望的な読後感。一方で、底辺層の救われない現実を淡々と描く小説であっても、野枝女史の作品からは「何とかしなければ」「このままじゃいけないんだ」という熱い叫びが聞こえてくるような、エネルギーにあふれてもいる。 明治を生きて、信念の為に死んだ野枝女史は、生まれてくる時代を間違えたとしか言いようがない。彼女の信念は今の時代にもそっくりそのまま訴えかけられる。言い換えれば、明治から世界は殆ど変わっていないということかもしれない。

1 / 0