青空文庫

「朝」の感想

あさ

田山花袋30
下町風土家族不和郷愁叙情的憂鬱静謐

書き出し

一家の中二階は川に臨んで居た。其処にこれから発たうとする一家族が船の準備の出来る間を集つて待つて居た。七月の暑い日影は岸の竹藪に偏つて流るゝ碧い瀬にキラキラと照つた。涼しい樹陰に五六艘の和船が集つて碇泊して居るさまが絵のやうに下に見えた。帆を舟一杯にひろげて干して居るものもあれば、陸から一生懸命に荷物を積んで居るものもある。此処等で出来る瓦や木材や米や麦や——それ等は総て此川を上下する便船で都に運

2023/10/06

00813f8b221dさんの感想

住み慣れた土地(花袋の故郷である館林だろう)を離れ、東京へ転居する一家族の川下りの様子を描いた作品。 本文に『其頃、栗橋の鉄橋が出来たばかりであった』という一節があるので、栗橋鉄橋こと利根川橋梁(初代)が完成した1886年の夏が作品の舞台と思われる。 出世を夢見て希望に胸を膨らませる少年、見知らぬ土地に不安を覚えつつ、長男夫婦がいるので少しは楽が出来るだろうと安堵する未亡人の母親など、家族それぞれの思いを乗せ、船が下る渡良瀬川から利根川へと続く河川の雄大な描写も魅力的。

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