かいじょうはつでん
初出:「太陽」第二巻第一号、1896(明治29)年1月
書き出し
一「自分も実は白状をしやうと思つたです。」と汚れ垢着きたる制服を絡へる一名の赤十字社の看護員は静に左右を顧みたり。渠は清国の富豪柳氏の家なる、奥まりたる一室に夥多の人数に取囲まれつつ、椅子に懸りて卓に向へり。渠を囲みたるは皆軍夫なり。その十数名の軍夫の中に一人逞ましき漢あり、屹と彼の看護員に向ひをれり。これ百人長なり。海野といふ。海野は年配三十八、九、骨太なる手足あくまで肥へて、身の丈もまた群を抜…