青空文庫

「お母さんの思ひ出」の感想

お母さんの思ひ出

おかあさんのおもいで

書き出し

私が十一か二の年の冬の夜だつたと覚えてゐる。お父さんは役所の宿直番で、私はお母さんと二人炬燵にさしむかひにあたつてゐた。背戸の丸木川の水も、氷りつめて、しん/\と寒さが身にしみるやうだ。お母さんは縫物をしてゐる。私は太閤記かなんぞ読みふけつてゐる。二人とも黙りこくつて、大分夜も更けた頃だつた。「孝一や。」とお母さんが呼んだ。私は本が面白くて、釣りこまれてゐたので、「ええ。」と空返事をしたままでゐる

1 / 0