青空文庫

「香油」の感想

香油

こうゆ

水野葉舟14
下宿生活旅の情景自己認識孤絶静謐鬱屈

書き出し

一その日は十二三里の道を、一日乗り合い馬車に揺られながらとおした。やっとの思いで、その遠野町に着いたころは、もうすっかり夜が更けていた。しかも、雪が降りしきっていて、寒さが骨に沁む。——三月に入ってからだったが、北の方の国ではまだ冬だ。やっとその町に入ったころは、町はおおかた寝静まっていた。……暗い狭い町の通りが、道も家も凍りついたようにしんとして、燈一つ見えない。その中を二台の馬車が急遽しい音を

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