青空文庫

「手品師」の感想

手品師

てじなし

初出:「新思潮」1916(大正5)年4月

久米正雄20

書き出し

浅草公園で二三の興行物を経営してゐる株式会社『月世界』の事務所には、専務取締役の重役がいつもの通り午前十時十五分前に晴々しい顔をして出て来た。美しく霽れ上つた秋の朝で、窓から覗くと隣りのみかど座の前にはもう二十人近くの見物人が開館を待つてゐる。重役はずつとそれらを見渡して、満足さうに空を仰いだ。すぐ前にキネマ館が白い壁を聳ててゐるので、夜前の雨に拭はれ切つた空が、狭く細い一部分しか見えない。併し重

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