ふたつのみち
初出:「新小説」1920(大正9)年5月
書き出し
一看護婦は湯にはいりに出かけた。岡部啓介はじっと眼を閉じていた。そして心の中で、信子の一挙一動を追っていた。——彼女は室の中を一通り見渡した。然し何も彼女の手を煩わすものはなかった。火鉢の火はよく熾っていた。その上に掛ってる洗面器からは盛んに湯気が立っていた。床の間にのせられてる机の上には、真白な布巾の下に薬瓶が並んでいた。机の横には、吸入器や紙や脱脂綿や其他のものがとりまとめて置いてあった。草花…