青空文庫

「蒸発皿」の感想

蒸発皿

じょうはつざら

初出:「中央公論」1933(昭和8)年6月

寺田寅彦24
内省虚構と真実貧困都市の異化分析的孤絶

書き出し

一亀井戸まで久しぶりで上京した友人と東京会館で晩餐をとりながら愉快な一夕を過ごした。向こうの食卓には、どうやら見合いらしい老若男女の一団がいた。きょうは日がよいと見える。近ごろの見合いでは、たいてい婿殿のほうがかえって少しきまりが悪そうで、嫁様のほうが堂々としている。卓上の花瓶に生けた紫色のスウィートピーが美しく見えた。会館前で友人と別れて、人通りの少ない仲通りを歩いていると、向こうから子供をおぶ

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