うつくしきつきよ
初出:「中央公論」1919(大正8)年11月号
書き出し
静かな晩である。空気は柔かく湿って、熟しかけた林檎からは甘酸い、酸性のかおりが快く、重く眠たい夜気の中に放散し、薄茶色の煙のような玉蜀黍の穂が澄みわたった宙に、ひっそりと影を泛べている。到るところに陰翳の錯綜があった。夏と秋の混り合った穏やかなどことなく淋しい景物が、今パット咲いた銀色の大花輪のような月光の下で、微かに震えながら擁き合っている。どこにも動くものがなかった。どこにもものを云う声が聴え…
新郎
記憶に残る正月の思い出
母