葬られたる秘密
ほうむられたるひみつ
初出:不明
約6分
cdd6f53e9284さんの感想
若死にした妻の霊が夜ごとあらわれ、家人は恐怖する。
半身をおぼろに霞めたその妻の霊は、生前に自分が愛用した箪笥の前に座って、不安気にじっと箪笥を見つめいるだけだ。
家人はおののきながらも、亡き夫人が生前に愛用した着物や帯に未練が残って成仏ができないのであろうと判断し、寺に事情を話して、箪笥の中にある着物や帯をすべて寺に納めて供養してもらうことにした。
これでもう夫人も成仏できたであろうと安堵していたところ、前夜と変わらずその夜も再び霊は現れ、また、箪笥をじっと見つめている。
怯え困惑した家人は、思い余って高名な僧侶に相談した。
「よろしい、委細承知した。霊の願いが奈辺にあるか、この拙僧が敢然問い質してみるによって、わしが声を掛けるまでナンビトたりとも、部屋に近づくことはならんぞ、左様心得よ、あい分かったな」
やがて夜になり、高僧の前に霊は現れて、また箪笥を見つめ始める。
しかし、確か箪笥の中身は空のはずだが、と思いながら、じっと霊の様子を観察していた高僧は、あることに気がつく。
そうだ、まだ引き出しの内側に貼ってある紙があるではないか。
高僧がその紙を一枚一枚剥がしていくと、その下に一通の手紙が隠されていた。
それは彼女が京都へ行儀見習いに行っていた時に、ある男から付け文された手紙だった。
そこで若妻の霊は懇願する、この手紙のことは、家族には、くれぐれも内緒にしておいて欲しいと。
高僧も、必ずや秘密裏に処分するであろうことを彼女に誓った。
安堵した霊は、それ以来、現れなくなったという物語。
この物語を読んだ直後は、たかが「一通の付け文」くらいで、死に迷い、成仏できないほどに迷ったりするだろうか、という疑問に囚われた。
しかし、こんなふうにも考えてみた。
例えば、爛れた肉欲が絡むこじれた関係の末に破綻した愛人への執着心というものがあったとして、その秘められた思いがこれほど長続きするものだろうか。
むしろ、恋愛に憧れるだけで、いまだ現実の色恋には怯え物怖じするしかない未経験な女性が、初めて貰った手紙に深い思いを抱くという方が、なんだか説得力があるような気がする。
「秘められた思いの永続性」を説明するにも、処女の性への憧れと恐れを想定する方が、この場合、納得しやすいかもしれない。
ただ、この物語を読んだ直後に、以下のような一文に接した。
《この話は、「新撰百物語」中の「紫雲たな引密夫の玉章」を原拠とするが、ハーンは原話の初めにある長い教訓的な部分と、最後にお園(若妻)の亡霊が再び現れる箇所を削除し、原話に「不義の玉章数十通」とあるところを「一通の手紙」と変えただけで原話のドギツサを払拭し、お園のただ一度の過ちと、それゆえの心残りを印象づけている。それだけでなく、幼い子供をお園の亡霊と一瞬会わせることで、読者に、若くして死んだ彼女への同情を起こさせ、彼女への成仏を確信させるのである》だってさ。
へぇ~、この解説によると、本当はさんざん遊んだヤリマンみたいな女(ひと、と読んでください)がモデルだったようで、ちょっと引いたが、やはり、ストーリーとして清浄にこだわった八雲の選択は正しかったし、処女性にこだわった自分の選択の方が、さらに正しかったと言えようか。
ぶっちゃけ、清浄で綺麗な話の方が、よっぽどいいよって話