にじのこ
初出:「文學界 第七十八巻第十号」文藝春秋、2024(令和6)年10月1日
書き出し
淹れたての番茶を一口すすって、真由美は何気なくリビングの窓に目をやった。大きな窓からは、琵琶湖が一望できた。あっ、来る。窓に貼りついた水滴の向こうに広がる湖の色を見て、そう直感した。朝から小雨続きだった。天気予報によると、午後も曇天らしかった。しかし空は天気予報を裏切って、雲の薄い部分から晴れ間を覗かせている。なにより水の色が澄んで、淡く輝いていた。真由美はあわててカーキ色のレインコートを羽織り、…