かき・みかん・かに
初出:「大阪毎日新聞」1936(昭和11)年9月9日
書き出し
秋というと生まれた川久保を思い、川久保を思うと累々と真赤に熟れた柿が目の前に浮んで来る。家の周囲は幾反かの広い畑で、柿の樹が二十本あまりも高々と茂っていて、その大部分は伽羅柿と呼ぶ甘味、多漿の、しかも大果、豊生の樹であった。一体に北山つきの村々は柿を多く産するのであるが、川久保のは特に優良といわれ、その中でも「お宅さまのはぜひ私に」などと青物仲買の商人達が先を争っていたことを思い起すと、よほどうま…