衣裳戸棚
いしょうとだな
マンパウル・トーマス約22分
書き出し
ベルリン—ロオマ行の急行列車が、ある中ぐらいな駅の構内に進み入ったのは、曇った薄暗い肌寒い時刻だった。幅の広い、粗ビロオドの安楽椅子に、レエスの覆いをかけた一等の車室で、あるひとりの旅の客が身を起した——アルプレヒト・ファン・デル・クワアレンである。彼は眼を醒ましたのである。口の中に、なんだかまずい味が感ぜられる。そしてからだは、あのあまり愉快でない感じでみたされている。やや長く走った後の停止と、…
2019/01/31
ba084db9a000さんの感想
すべては宙に浮かんでいなければならぬ。 暦も把握せず、時計も持たないアルプレヒト•ファン•デル•クワアレンは、行き先のわからぬ電車に飛び乗って終着駅まで寝ることで、自分の居場所さえ曖昧にした。 赤が印象的に使われる。とくに赤と白の対比は苺とクリームという甘い喩えで際立っている。 アルプレヒトの心拍と私の心拍が同調したのは、話の進め方の上手さによるだろう。
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