むぎかり
初出:「七曜」1959(昭和34)年8月
書き出し
久々に来た東京の友を案内して、奈良の新薬師寺から白毫寺村の方へ歩いた。この辺りの麦刈はすこし遅れていま盛んに刈つてゐるところである。真青な苗代田があちらこちらに見える。麦刈の女の一人がつと立ち上つて、天を仰ぐやうに身を伸した。私の昔の句に麦刈が立ちて遠山恋ひにけりといふのがあるが、この辺りは近くに春日山、高円山などの山々が迫り、その青い色が黄麦の色と照りあつてゐる。「美しい麦ですね、向ふの麦は焦げ…