おおさかで
初出:「文章世界 第十五巻第七号」1917(大正6)年7月1日
書き出し
汽車で、東京の近郊に行く。麦の黄熟したさま、里川のたぷたぷと新芽をたゝえて流れてゐるさま、杜の上に晴れやかに簇がり立つた雲のさま、すべて心を惹かないものはない。『麦ははや刈り取るべくもなれる野にをりをり白し夏蕎麦の花』歌は平凡だが実景である。香川景樹の歌に、『夜半の風麦の穂立におとづれて蛍とぶべく野はなりにけり』といふのがあるが、いつでも今頃になると思ひ出されて来る。夜半の風と初句に切つて、麦の穂…