しんじゅとうのひみつ
初出:「新趣味」1923(大正12)年8月号
書き出し
一長い陰気な梅雨が漸く明けた頃、そこにはもう酷しい暑さが待ち設けて居て、流石都大路も暫くは人通りの杜絶える真昼の静けさから、豆腐屋のラッパを合図に次第に都の騒がしさに帰る夕暮時、夕立の様な喧しい蝉の声を浴びながら上野の森を越えて、私は久し振りに桜木町の住居に友人の橋本敏を訪ねた。親しい間とて案内も乞わずにすぐ彼の書斎兼応接室の扉を叩いて中へ入ると、机に向って何か考えて居たらしい彼は入口へ首を捻じ向…