やまさちかわさち
初出:「金の船」キンノツノ社、1920(大正9)年1~2月
書き出し
一昔、紀州の山奥に、与兵衛といふ正直な猟夫がありました。或日の事いつものやうに鉄砲肩げて山を奥へ奥へと入つて行きましたがどうしたものか、其日に限つて兎一疋にも出会ひませんでした。で、仕様事なしに山の頂から、ズツと東の方を眺めて居ますと、遙か向ふから蜒々とした細い川を筏の流れて来るのが見えました。「あの筏が丁度この山の麓まで流れて来る間に俺はこゝから川端まで降りて行かれる。そして俺はあの筏に乗つて家…