くまといのしし
初出:「金の船」キンノツノ社、1919(大正8)年12月
書き出し
一紀州の山奥に、佐次兵衛といふ炭焼がありました。五十の時、妻さんに死なれたので、たつた一人子の京内を伴れて、山の奥の奥に行つて、毎日々々木を伐つて、それを炭に焼いてゐました。或日の事京内は此んな事を言ひ出したのです。「お父さん、俺アもう此んな山奥に居るのは嫌だ。今日から里へ帰る。」「そんな馬鹿を言ふものぢやあ無い。お前が里へ出て行つたなら、俺は一人ぼつちになるぢやないか。」と言つて佐次兵衛は京内を…