青空文庫

「今戸心中」の感想

今戸心中

いまどしんじゅう

初出:「文芸倶楽部」1896(明治29)年7月

広津柳浪103

書き出し

一太空は一片の雲も宿めないが黒味渡ッて、二十四日の月はまだ上らず、霊あるがごとき星のきらめきは、仰げば身も冽るほどである。不夜城を誇り顔の電気燈にも、霜枯れ三月の淋しさは免れず、大門から水道尻まで、茶屋の二階に甲走ッた声のさざめきも聞えぬ。明後日が初酉の十一月八日、今年はやや温暖かく小袖を三枚重襲るほどにもないが、夜が深けてはさすがに初冬の寒気が身に浸みる。少時前報ッたのは、角海老の大時計の十二時

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